秋葉男

2004年12月4日 恋愛
 秋葉原の朝は早い。
 一成は驚いた。
 満を持して始発電車でやって来たというのに、既にたくさんの人で賑わっている。
「まだ空が暗いってのに・・・これが秋葉原・・・」
 一成の胸がギュンギュンと高鳴った。胸の高鳴りはやがて股間の憤りへと変わり、その憤りをなんとか鎮めた頃には時計の針は既に正午を回っていた。
 時間の感覚がまるで違う!
 体勢を立て直さなければ!
 初めて秋葉原にやって来た一成は、異様な空気に自分が飲み込まれていることに気付いた。このままではマズイ。初秋葉原が台無しだ。せっかくおNEWのリュックとジージャンを装備してきたというのに、まるで生かしきれていない。
「こ、このままで終わるわけにはいかない!僕はいずれこの秋葉原の頂点に立つはずの男なんだぞ!・・・・・・うおぇじぇほふぇjjcldjldjlfjldjfンうぎょええええええvcldfklまんんjfldjjhbhんんんんんん!!!」
 声にならない咆哮をあげ、一成は走りだした。
 その雄叫び自体がただの強がりに過ぎないことは彼自身分かっていた。それでも声を荒げて秋葉原の街を走り回ることを止めることはできなかった。
 自分の存在感をこの街に示したい。それだけを願い、彼は精一杯の虚勢を胸に走り続けた。
 汗も、涙も、その他諸々の何もかもを出し尽くすまで彼は走り続けた後、いつのまにか公園のような場所にいた。
「あれだけやっても、誰一人振り向きすらせぇへん。何て他人に無関心な街なんや。今日はわての完敗や。でも次は負けへんでぇ!」
 負けを認めると、一成の心は晴れた。緊張が緩んだせいか、一成は突然トイレに行きたくなった。
「うー、トイレトイレ」
 小走りで公園のトイレへかけていく途中で、一成がふと目を向けると、ベンチに一人の若い男が座っていた。
(ウホッ!いい男・・・)
 そう思っていると突然その男は一成の見ている目の前でツナギのホックをはずしはじめたのだ・・・!
「君、名前は?」
「え、僕? 僕、一成っていうんだ」
「・・・そう・・・。俺の名はやんし。やんしだ」
 そうこうしているうちに男はホックをはずし終え、一言一成に言い放った。
「やらないか」

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 色々あった後で、やんしは一成に言った。
「おまえ、秋葉原が知りたいのか?」
「ええ、知りたいですとも。教えてくれるって言うんですか!?」
「ふふ。まあ慌てるなって。ひとつ、昔話といこう。・・・これは今でも語り継がれる、秋葉男の話だ」
 そう言ったやんしの目は逝っていた。
 こうして、一成は秋葉男の話をやんしの口から聞かされることとなったのであった。   
 
 
 
 

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